緩和ケア病棟の看護師はがんの苦痛を和らげるケアを提供します

「緩和ケア」はがん患者の心身のつらさを和らげ、その人らしい生活を大切にする考え方です。緩和ケア病棟は、がんの治癒を目的としたものではなく、苦痛を取り除き、可能な限り、その人らしく快適な生活を送れるように専門的なケアを提供することで、患者さんと家族の療養生活の質を高めようという目的で作られています。

医師や薬剤師との連携が重要

ここ宮城県には宮城県立がんセンター東北大学病院光ヶ丘スペルマン病院の3つ医療機関に緩和ケア病棟があります(2013年末現在)。

緩和ケア病棟で働く看護師は、医師や薬剤師と協働しながら、がんによる痛み、吐き気、不眠などをきっかけに入院してきた患者さんの苦痛な症状を和らげるためのケアを行います。

ここで大切なのは病気や症状など身体の問題だけでなく、心理社会的問題、精神的な問題にも目を向けるということです。例えば、がんの進行に伴い痛みが激しくなったり、呼吸困難などの症状が出て、今までは可能だった歩行や食事も難しくなってしまうことがあります。

このように従来の生活ができなくなると、患者の不安は更に強まり、さまざまなつらさを感じるようになり、精神的に不安定になってきます。看護師は、患者さんや家族との普段のケアや会話の様子を他のスタッフへ説明したり、必要なケアの調整を行い、その患者さんが少しでも落ち着けるようにサポートしていきます。

入院生活を送る患者さんのQOLを保てるように、病室で音楽療法を行ったり、お茶会を開催したり、ペットと触れ合う時間を設けたり、季節に応じた写真や絵、花を飾るなどの入院環境の整備を行うことも看護師の大きな役割となります。

緩和ケア病棟の看護師は、最後までその人らしく過ごせるように患者さんが亡くなる時期もケアを行います。家族にとってはつらい時期になりますので、家族の気持ちに寄り添い、患者との付き添い方などのアドバイスを行います。

大学病院の緩和ケア病棟で働く看護師(20代)の一日の仕事

大学病院で働く恵さん(仮名:20代後半)が、緩和ケア病棟に配属されてから2年目の春を迎えました。他の診療科に比べて患者さんとの心理的な「距離感」が近くなるため、最初は担当した患者さんが最期を迎える度に精神的な疲労が大きく、気持ちが沈んだこともありました。

チーム医療を学ぶ機会が多い診療科です

現在は人生経験と看護経験が豊富な先輩からの指導・アドバイスを受けながら、精一杯自分にできるケアの提供を心掛けています。そんな恵さんの一日のスケジュールは次のようになっています。

情報シート確認、申し送り(8:30〜)
出勤後、ナース服に着替えて最初に取りかかるのは、担当する患者さんの情報シートのチェックです。シートには患者さんの病状や毎日の体調のほか、家族がお見舞いに来る日など、よりよい看護をするために必要な情報が記録されています。

その後、会議室に全看護師が集まって夜勤者からの申し送りを受けます。リーダーから入院患者さんの昨晩の状態が伝えられますので、それを踏まえたうえで、その日の看護の注意点を全看護師で共有します。

麻薬鎮痛剤のチェック(8:45〜)
次に取りかかるのは麻薬鎮痛剤の確認です。緩和ケア病棟では患者さんの痛みや息苦しさを緩和するため、一般の薬よりも効き目の強い医療用麻薬を使用する必要が出てきます。これらはいつも鍵のかかる金庫に入れて数を管理するなど、取扱い方が法律で厳しく定められています。薬は患者さんごとのケースに分けられています。数もしっかり管理されており、ミスを防ぐため、3人の看護師が同時に確認を行います。

患者さんへの挨拶、点滴・薬の準備(9:00〜)
病室に顔を出し、担当する患者さんへ挨拶をします。不安を表に出すと患者さんにも移ってしまうため、いつも穏やかな笑顔を心掛けています。挨拶が終わると、ナースステーションで薬の準備をします。衛生管理のために手を洗ってから手袋を着用し、それぞれの患者さんに処方された点滴薬を用意します。

飲み薬は配薬カートにあらかじめ1週間分が用意されていて、必要な分量を取り出します。薬の種類や分量の間違いは絶対に許されないので、薬の準備・投与・廃棄の3回、それぞれ二人以上の看護師が必ずチェックする体制を作っています。

患者さんのケア(9:15〜)
準備した薬をカートに載せて病室へ向かいます。緩和ケア病棟は、その特性上、抵抗力の低下している患者さんが多いため、除菌してから病室に入るようにしています。まずは体調を把握するために体温、脈拍、血圧などを測ります。患者さんと会話をし、体の痛みや体調の変化がないかの確認も欠かしません。そして、先ほど用意した薬を患者さんに投与します。よりよいケアができるように、患者さんの体調や薬の量はこまめに記録に残します。

不調を訴える患者さんがいる場合はすぐ医師に報告し、苦痛を取り除くための処置を行います。そのために緩和ケアの専門医が常に病院内にいて、いつでも対応できる準備が整っています。

患者さんの昼食配膳(12:00〜)
昼食の配膳も看護師の仕事です。食事は患者さんの体調や好みに合わせて病院内で調理されています。病気が進行して自力で食事をするのが困難な患者さんの場合、看護師による食事の補助も必要です。食事が終わると、体調管理のためにどのくらいの量を食べて、どんな薬を飲んだかも記録します。看護師もこの時間に交代で昼食をとります。

ナースカンファレンス(13:45〜)
ナースステーションに看護師全員が集まり、会議を開きます。議題は看護方針について。患者さんの体の問題に限らず、生活や家庭問題の対処など、心にも十分なケアができるように取り組んでいます。緩和ケア病棟には各診療科で経験を積んだ看護師が多いため、すごく勉強になります。また、若手看護師も自分のアイデアをだし、全員がチームとして患者さんの看護にあたっています。

点滴・薬の準備、患者さんのケア(14:15〜)
緩和ケア病棟には寝たきりの人から自力で歩くことができる人まで、様々な体調の患者さんが入院していて、それぞれの状態に合わせた看護を提供しています。体を動かせない人のための体位変換、体力の落ちた人のための入浴介助など様々です。患者さんの体調によっては病院内を散歩することもあります。

リーダーに申し送り(16:30〜)
その日の担当患者さんの状態をリーダーに申し送りします。担当した患者さんの状態はリーダーから夜勤の看護師に伝えられ、効率の良い情報共有を行っています。日勤は8時30分から17時、夜勤は16時半から翌日の9時までです。こうして24時間体制で毎日の看護を行い、見守ることで、患者さんが落ち着いた生活を送れるように支えていきます。

看護師に求められる適性:自分の「死生観」を持つことが重要

緩和ケア(ホスピス)病棟における看護師の業務は、医師、薬剤師、栄養管理士、ソーシャルワーカー、理学療法士、臨床心理士など多岐にわたるスタッフと情報共有を行い、チームとして患者さんやご家族のケアにあたります。

そのため緩和ケア領域における医療知識・技術はもとより、チームワークを大事にし、コミュニケーション能力に長けた人が求められます。

身体的な苦痛へのケアは勿論、終末期の患者さんが抱える死への恐怖感、絶望感、ご家族の無力感や悲しみなど精神的な苦痛へのケアも重要となりますので、内科的な処置に加えて、患者さんやご家族の気持ちを汲み取りながらQOLを向上させるための技術も必要です。

緩和ケアを受ける患者さんは終末期にあるケースが多いため、他の病棟の看護師に比べて患者さんの死を目の当たりにする機会が非常に多くなります。緩和ケア病棟は、急性期病棟と異なり患者さん一人一人と向き合い、その人に合わせた看護が提供できるというメリットがありますが、その反面、担当の患者さんへの思い入れも強くなる傾向にあるため、患者さんが心身の苦痛で苦しんでいたり、あるいは亡くなった時の看護師の精神的なショックは大きくなります。

ベテランの方は経験則によって、自分なりの精神的なショックの向き合い方、解決方法を確立していますが、経験が浅い若い看護師にとっては精神的な負担によって塞ぎこんでしまったり、「自分には向いていないかもしれない」と悩んでしまうことも少なくありません。医療に携わる職業に就いている方は自分なりの「死生観」を持つことが大切といわれますが、緩和ケアを行う看護師は特に重要といえるでしょう。